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Opaの日々雑感


by mizzo301
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ピアニスト、ヴァレリー・アファナシェフ

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 この頃、何気なくつけたテレビの番組に見入ってしまう事がよくある。1947年ロシア生まれのピアニスト、ヴァレリー・アファナシェフを追ったドキュメントもそんな一つであった。旧ソ連のさまざまな抑圧の中での学生時代、偶然に聴いた一枚のレコード、日本の謡曲に心を突き動かされる。さらには露語訳の徒然草や源氏物語など古典に読みふけり、その美学に心酔して行く。やがて魂の自由を求めて亡命、パリで夢に見た西側の豊かな生活を享受する。だがはびこる商業主義に幻滅、求める真の自由がそこにはないことを知り、もののあわれを求めてますます内省を深くする。ついには日本を旅し晩秋の京に遊ぶ。、源氏物語絵巻に見入り、夕顔を舞う能舞台の幽玄に酔いしれたピアニストは、能役者との鼎談で、音の中に無を感じフォルティッシモに静寂を聞くという。洗面器の湯で手を温め、庭に向かって開かれた古寺の障壁画に囲まれて、端然とシューベルトを弾いて番組は終わるのである。親しい人々にも真実を明かせぬまま果たした亡命、恩師ギレリスの墓にそれを無言でわびるピアニストは、もののあわれを求め続けて、ますます孤独を深めていくのだろうか。わが古典をもないがしろにしたまま、知ったふりをして西欧のあれこれを語るおのれの尊大な心に、ずしりと重い番組であった。
by mizzo301 | 2008-11-04 12:27 | エッセイ | Comments(0)