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Opaの日々雑感


by mizzo301
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サウンド オブ ミュージック

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 ミュージカル映画の傑作、サウンドオブミュージックは事実に基づいて制作されたといわれる。何度見ても終盤の部分では緊張ではらはらとさせられる。フォン・トラップ一家が亡命を決意、夜陰にまぎれて屋敷を出ようとする。それを見たナチ党員の冷徹そうな執事の密告で、追っ手の待ち伏せに会う。音楽祭のすきをみて一家は近くの修道院に逃れ、墓地にかくまわれる。追っ手は一家の潜む墓所の鉄格子をガシャリガシャリと揺さぶり、懐中電灯の光で探索する。いつ見ても息を殺して見入ってしまう場面である。修道女達の機転に助けられ、一家はあわやというところで脱走、徒歩で国境を越えてスイスの山地とおぼしきところを行く、観客はほっと安堵の胸をなで下ろして映画は終わるのである。
 最近テレビでフォン・トラップ一家の次女、1914年生まれのマリアさんが、当時の事実を語るのを見た。当家の執事はナチ党員ではあったが、当主のトラップ男爵とその一家には好意的で、自分が一家の様子を上層部に報告しなければならない事を告白、食事時に政治の話題を避けて欲しいと頼んだそうである。また一家の渡米に際しても、国境の封鎖が近いことを教えて、行くなら早くと促したそうである。一家は家族合唱団として当時すでにかなり有名で、渡米はアメリカからの演奏会招聘であったという。当時の政情から出国は亡命に等しかったが、映画のようにナチスに追われて命からがら逃げたのではなく、汽車で故郷ザルツブルクを離れ、イタリアを経由して英国からニューヨークへ渡ったという。
 映画のスリルに満ちた逃走劇とは随分ちがうのである。だがマリアさんの語る無一物でのアメリカ生活は、一家にとって並大抵の苦労ではなかったようだ。ナチスを忌避したトラップ一家の苦労を、微笑みを浮かべて静かに語る老女に漂う気品は、かつてオーストリア貴族の一員であったまぎれもない証であろう。
by mizzo301 | 2008-05-24 17:37 | エッセイ | Comments(0)