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Opaの日々雑感


by mizzo301
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九寨溝、世界遺産という自然破壊

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 九寨溝は渓谷を遡行する旅である。幸い好天に恵まれた。流れは時に山容を写す鏡面の湖水となり、次の瞬間激しい瀑布と化して砕け散る。生い茂る植物たち、可憐な高山の花々が水辺に彩りを添える。急流に建てられた小屋で回転するマニ車が、軋みながら真言を唱える。ふとチベット人の信仰を思う。旅人は最奥地まで整備された広い舗装路を専用バスで移動し、時折渓流沿いの桟道を歩いて、目の前で変容し続ける大自然のパノラマを堪能する。行く手遙かには、目も眩む岩峰が日を浴びて立ちはだかる。予想を遙かに超える絶景に、Opaは正しく言葉を失った。
 パンダが徘徊し、金糸猴が跋扈したというこの深山幽谷に、かつてチベット族が営む九つの人里があったという。九寨溝の所以である。今は僅かに三か村が残るが、世界遺産内ということで、本来の生業である農耕と牧畜、家庭用の養鶏まで禁じられた生活である。立ち寄った村では、外部から野菜や食品を売りに来た小型トラックに集まる村人の姿があった。観光シーズンに土産物店などで得る現金収入が生活の糧だという。一帯が閉鎖される冬場は何の収入もないが、それでも家屋は一見なかなか立派に見える。中には自家用車を表に駐めている家もあって、それなりに生活の安定がうかがえる。だが、押し寄せる開発の大波に耐えられず、山を去った六か村の住人は何処へ行ってしまったのか。居所を移した住まいから、通いでこの地の清掃スタッフなどをして働いているのだろうか。あるいは都市部などの低賃金労働者として、苦渋の日々を耐えているのではなかろうか。気楽に観光するOpaの陰には、これら生地を追われた人々の犠牲があるにちがいない。自然と共に生きた人々の生活を壊すのであれば、これは世界遺産という名の自然破壊ではあるまいか。
by mizzo301 | 2007-09-07 11:45 | エッセイ | Comments(0)