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Opaの日々雑感


by mizzo301
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木瓜の花が咲いたら

木瓜の花が咲いたら_d0087054_18204074.jpg

 紅色の木瓜の花が満開だ。Opaの庭で毎年春一番の花である。傍らに雪柳がちらほら、小手毬も新芽をふきだして花の出番を待っている。齢を何十年も重ねながら繰り返される我が茅屋の光景である。つくづく春だと思う。猫の額ほどの庭、これから晩秋までは植物たちの季節である。
 とりわけバジルが好きで、4月には大量に種を蒔く。数年前の夏、病室に家人が届けてくれた小さなバジル一本、根本で切った10センチばかりのをグラスに入れて窓辺に置いた。一週間も経たぬうちにひげ根が生え出し、それはやがて根の体裁を整え、水中でそよぐまでになった。このささやかな緑と香りに、術後の静養を慰められた。毎朝水を替え、一日何度も鼻に近づけて匂いをかぐ。癒しの香りが鼻孔から胸いっぱいに広がるような感触を確かめたくて、何度もそれを繰り返した。時には昼間、ちぎり取った小さな葉っぱを、両の鼻孔に詰めて居眠りもした。バジルの香りを、全部吸い取りそうなほどに愛玩した。
 その時病室で見たものは、この小さな植物の生きる力であった。それを少しずつ、Opaにも分け与えてくれると信じたかった。順調な恢復は、あのバジルのお陰ありと今でも思う。秋のある日、Opaとバジルは退院した。その後も彼女は、台所の窓辺に置いたグラスの中で日光を楽しむ風であったが、晩秋のある日、水替えの効もなくさすがにしおれ果てた。その葉や茎を指で揉んでやると、バジルの香りが鼻孔から胸いっぱいに染み渡る。それは病室の時の若葉がOpaにくれたのと変わらぬ、癒しと命の香りであった。
by mizzo301 | 2007-03-02 18:22 | エッセイ | Comments(0)