思い出の犬、その後
2013年 01月 24日
今では考えられないことだけど、そのころ犬を放し飼いにする家は多かった。野犬狩りもあったらしく、捕獲された犬はみんな三味線にされるというわさであった。あの日から何日も帰らないアキは、もう三味線になったのではとふと思うこともあった。当時Opaは、家族とはなれた四畳間でひとり寝起きしていた。部屋には父手作りの小さな勉強机と椅子、隅にたたんだOpaの寝具だけがあった。いつの頃からかその部屋に異臭がただよいはじめた。悪臭である。父に話すと、床下におおかた猫の糞でもあるのだろう、そのうちに消えるといって取り合ってくれない。そのままでは、臭いが気になって寝付けなかった。ある夜、Opaは思いきって畳をめくり、床板をはいだ。そこに電灯に照らされ、土の上に浮かんだものを見て息をのんだ。灰色のカビにおおわれた厚紙のようなもの、それが犬のかたちをしている。首のあたりには、見覚えのあるくたびれはてた革の首輪があった。農家が畑に、害獣駆除の毒餌をおくことがあると聞いてはいた。アキはそんなひとつを拾い食いしたのだろうか。家にはたどり着いたが、我が身に異常を感じて小屋に入らず、床下にもぐりこみ、Opaの真下のつめたく黒い土に身を横たえて、苦しみながら息絶えたのだ。あんなに帰りを待ったアキは、ずっとOpaのそばにいたのだった。首輪を持ち上げると、皮だけのアキは地面をはなれ、骨らしき物がはらはらと散った。暗い夜であった。庭木の枝に懐中電灯をかけて、花のない花壇の隅にOpaはくわで穴を掘った。そこへ異形のアキを折りたたむように納め、拾いあつめた骨をのせて土をかぶせると、ちいさな土まんじゅうができた。両足でそれをとんとんと踏んで、アキの埋葬はおわった。Opaは中学生になっていた。
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hiromuj
at 2013-01-24 21:46
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いい話だ。うちも土佐犬が入れ替わり立ち替わり何十匹と飼っていましたが、部屋に大きな犬小屋が置いてあって、名前は忘れたが雌の老犬が二、三日餌も食べずにもうろうとして寝てばかりいましたのが、ある晩いざり足でごそごそと這うように出て来て親父の膝に大きな頭を乗せて、尻尾がパタパタと力なく2,3回タタミから持ち上がりました。その後10数分で息が絶えました。その記憶は今でも鮮明に残っています。
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mizzo301 at 2013-01-24 23:49
土佐犬の最後、胸がつまります。生後わずかな期間で母親からはなれなければならない犬たちには、人が唯一のよりどころなんですね。人のよりどころが犬だけの場合もあります。Opa
by mizzo301
| 2013-01-24 14:32
| エッセイ
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Comments(2)